パンがなければケーキを

 危機感がないのも教養不足なんだそうだが、養成期間に失敗した人間は、どのような曲折を経ようとも、ブレイクしなければ、年収200万円以下を受け入れるしかない。しかし、貴族的な彼らは僕の貴族主義的傾向を嫌いつつも「ケーキもないさ」と僕に言われるのを嫌う。
 しかも、特に母親は年収200万円の生活を想像する能力が本当に全くない。「月収12万円でも仕事ぐらいあるからやればいいのに」と本気で言って、家内をあきれさせた。本人は大卒初任給の8倍(当時の医者はそういうものだった)の給料をもらっていた自分の旦那の給料では足りず、開業医の実家から仕送りをもらっていたのだ。彼女は当時を振り返って涙ぐんで言う「お金がなかった」と。
 世間も知らない。道楽ならともかく、33歳のフリーターが調理師学校を卒業して就職口があると思ってる。それだって本人の成長には違いないので、反対はしないし、認めてるし、本人には言わないけれどね。
 別の意味でまともな家庭環境ではなかったことを再認識した。まっすぐ育った結果、貴族以外の人種に僕と弟が慣れる可能性はゼロだったと思う。