先月、27日の話になるが

 考えてみれば丁度10年ほど前、確かちょうど同時期(夏から秋)に行動を共にしていた詐欺師に行きあった。
 博多駅前で1時間ぐらい時間が出来たので仕事をしようと喫茶店に入り、トイレの場所を聞いていたら、むこうから声を掛けてきた。
 「あ、**くん」
 「あー」
 「わかる?」
 「わかりますよ」
 という、どの面下げて今の俺に声かけてるんだと思うが、そこはそれ詐欺師だから厚顔無恥が商売だ。不覚にも当時と同じに敬語を使ってしまった。イメージとしてはため口を聞かなければと思っていたんだけどね。

 それ以上の会話はなかったが、僕はその場を逃げるように去ることもなく、悠々と20〜30分ぐらい仕事をして、それでも関わり合いになるリスクの上昇を考えてその店を出た。先方は、時々聞こえよがしに僕のことを話題にしている(脅している)。もちろん声を掛けることもなく。完全無視で。

 嘘か本当か知らんが、一応最後はヤクザを名乗っていたので、ビビっていると思われるのは癪。でも、ヤクザを名乗ってこちらがビビらなければ先方がびびるのが常で、結局のところ、今も昔もびびるのはあっちなんだなぁと思った。遠くから聞こえよがしに話題にする程度の控えめな脅しに心が動くほどでもない。考えてみると、やはり直接声を掛けるのは(僕の反応が激しく出るのは)厳しかったのだろう。

 もしあれ以上声を掛けてきたら、写真撮って免許を確認したけどね。携帯にカメラが付くようになってやりづらかろう。嫌がったら凄むぐらいのつもりはあった。ただ、一応の用心はしておかないとね。すごみの動機が一定のマイナス感情であることは認識していたし、そうした感情が走ってもあまり良い結果を呼び込まないのは学習済みだったため。相手が違えば今でもこの人と喧嘩したいかもしれないなぁと思うことはよくある。

 詐欺師としては規模も能力も気概も最下級。どっちかというとシノギの下手な無理筋で、大怪我させて病院に運び込み薬漬けにするぐらいのことはやるんだろう。医者を追い落としておくぐらいのことはやる。後から考えるとはっきりそうした危険があった瞬間が何度かあったが、おそらく何かに守られていたためそういう事態には陥らなかった。

 なんにせよ、ひとつのイニシエーションを越えた感じがあるね。よくこなしたというところ。


 しかし、名前で検索してみるともう10年も同じ看板を掲げているようだな。更新されているのでうち捨てられたサイトではないようだな。事務所も多少は良いところに移ってる。いちおう、目に見える形での詐欺は辞めたのか。しかも僕と同時期に関わっていた奴が担当名に名前を連ねている現実。

 あんなんでも生きていける。この世の中は意外に救いがあるのかもしれない。